『ありがとう、お父さん』 きちんとお礼を言うなんて、きっと初めてだ。 だから父親も、照れくさそうに笑う。 近いうちに顔を見せに行こうと決めて、未央子は電話を切った。 大学入学を機に離れて暮らしているが、たった一人の家族だ。 会いたいと思って会えることは、当たり前のようで、そうでない。 母親探しを始める今、その特別な幸福を、未央子はようやく知った。