親愛なる母へ




最初の行き先は、母親の田舎だ。

幼い頃に数回訪れただけの未央子にとって、そこは“田舎”でしかなく、その地名を知るために、まず最初の試練があった。

昨日、未央子は父親の携帯電話を鳴らした。

母親の田舎を教えてほしいと口にすると、彼は当然のごとく取り乱した。



今更何をしようというんだ。

何の意味があるんだ。

過去に触れると、未央子が傷付くことになる。

やめておけ。



父親は予想通りの言葉を並べて説得を試み、未央子の頼みを頑なに拒んでいた。

しかし、いつになく真剣な未央子の気持ちを汲んで、地名だけを打ち明けた。

住所は、今すぐにはわからないと言う。

小さな街だ。

それだけ聞けば、記憶を頼りに祖父母の家に辿り着くことができる。