親愛なる母へ




公園の隅の小さな砂場で、幼い男の子が、青いダンプカーのおもちゃを走らせながら遊んでいる。

その傍らのベンチから、母親と思しき若い女性が微笑みを送る。

ごく当たり前の日常を、しかし未央子は特別な思いで見ていた。


「あたしの母親、今はいないんだけど。とんでもない暴力女だったんだ」


未央子は口元で小さく笑う。


「虐待って、連鎖するって言うでしょ」


だから、将来結婚してそういう機会が訪れても、子どもを持たないつもりだった。

遠くを見つめる横顔に、亮が言う。


「そうなる確率は高いって聞いたことはある。でも、必ずしもそうなるとは限らないだろ」


わかっているとは思うけど、という言葉に、未央子は小さく頷く。

しかし、理屈ではない。

それは亮にもわかっている。