親愛なる母へ




耳元で、かすれる声が聞こえた。

体を起こすのを手助けすると、悲しげな色をたたえた瞳が、未央子を見つめた。


「ごめんね……」


耳を、疑った。

何が、“ごめん”?



思い出してしまったのかと、思った。

しかし未樹の目は複雑な色に揺れ、彼女自身の戸惑いを語っている。

うわ言のように繰り返させるのは、心の奥底に閉じ込めた記憶の仕業か。


「ごめん……ね……」


指先が、熱を持つ。

ちりちりとしびれるようなこの感覚は、怒りか、悲しみか。

震える唇が開きかける。

それを無理に、きつく噛みしめた。