悪い夢を見ている気分だった。 自分がどう振る舞えばいいのか、全くわからない。 ともすると、最悪の事態を引き起こす状況だ。 でも。 『お母さん』 もう一人の自分が、呼んでしまう。 触れたいと、願ってしまう。 理屈では、なかった。 震える手を、恐る恐る、彼女の背に回した。 彼女の体は、温かい。 温かくて、懐かしくて、安心する。 涙が、出る。 偶然でも、運命でも、どちらでもよかった。 ただ、奇跡だと思った。 この出会いはただ、優しくも残酷な、たった一度の奇跡だ。