「……亮君!!」 カツン、とアスファルトに乾いた音が響く。 そして次の瞬間、目の前を、ぎこちない動きで柔らかな黒髪が過ぎた。 亮に歩み寄るのは、片手に杖を携えた一人の女性。 足が悪いらしく、引きずるようにしながら歩を進めている。 カツン、カツン……何度か続いた音が消える。 目を丸くする亮の前で立ち止まったベージュのスーツの後ろ姿を、未央子はただ見ていた。 胸のざわつきに、戸惑う。