親愛なる母へ




オフィス街に近く、スーツを着た人が多く行き交っている。


「緊張してんの?」


並んで歩き始め、亮は頭一つ分以上低い位置にある未央子の上に、からかうような声を落とす。

しかし未央子は余裕の表情で亮を見上げる。


「ふふん。あたしがそんな女に見える?」

「はは。頼もしいな」


笑いながら、ふと。

本当に、ごく偶然に。

亮の視線が、未央子の向こう側に、一瞬だけ流れた。

見落としてもおかしくはない、距離と、人混みだった。


「み……」


亮の声が、詰まった。

少し前を歩いていた未央子が振り返ると、亮の視線が一点に貼り付いていることに気付く。

その視線を追うより早く、


「亮君……?」


透き通った声が、未央子の鼓膜をふわりと震わせた。