親愛なる母へ




薄暗い玄関から一歩出たところで、外の眩しさに、思わず目を細めた。

太陽が高い位置から、容赦なく強い日差しを注いでいる。

その光の中に降り立った未央子は、ようやく口を開いた。


「違ってた」


亮も未央子に続いて、数段だけのコンクリートの階段を下りる。

未央子は背を向けたまま続ける。


「違ってた。妊娠じゃなかった。生理不順になってるだけだって」


亮が隣に並ぶと、無理に作った笑顔を向けた。


「中絶の同意書、書いてもらわなくて済んだね。よかった」


それが、未央子が亮に頼んだことだった。