未央子は封筒の一つに手を伸ばす。 いったいどんな馬鹿げたことが書かれているのかと、半ば投げやりになっていた。 そうでもしないと、こんなものは読めない。 もう自分を覚えていない者からの手紙は、輪郭のぼやけた嘘のような存在だ。 そんなものを真面目に読むわけにわいかない。 きっちりと畳まれた便箋を取り出し、開いた。 “親愛なる未央子へ” その一行が胸に与える痛みに耐えるように、未央子は一度、きつく目を閉じた。