親愛なる母へ




一緒に過ごした時間も、想いを伝えたことも、未樹はもう知らない。

残っているのは、亮の頭の中だけだ。

それはあまりに頼りない現実で、もしかすると夢なのかもしれないと思っても、誰も否定してくれない。


『未樹さん』


穏やかに微笑むその人に、触れたい。

でも。

崖の下に咲いた花が、ちらつく。

必死の思いでリハビリをしても、自由は戻らない両足が。

滑らかな肌に刻まれた、いつまでも消えない傷痕が。

亮を、無言で責める。

思い知らせる。

罪を。

浅はかだった自分の愚かさを。