一緒に過ごした時間も、想いを伝えたことも、未樹はもう知らない。 残っているのは、亮の頭の中だけだ。 それはあまりに頼りない現実で、もしかすると夢なのかもしれないと思っても、誰も否定してくれない。 『未樹さん』 穏やかに微笑むその人に、触れたい。 でも。 崖の下に咲いた花が、ちらつく。 必死の思いでリハビリをしても、自由は戻らない両足が。 滑らかな肌に刻まれた、いつまでも消えない傷痕が。 亮を、無言で責める。 思い知らせる。 罪を。 浅はかだった自分の愚かさを。