会える場所にいるのに、“会えない”。

それはつまり、未樹が自分のことを思い出してはいけないからだと、未央子は悟る。

母親が自分を産んだことは、彼女にとって忌まわしき過去。

それを抱えたままでは、生きられない。

だから、手放した。

記憶を丸ごと手放して、新しい人生を歩むことを決めたのだ。

他でもない、母親自身が。

だから自分が、母親の前に姿を現すことは決してあってはならない。

穏やかに生きている彼女を、再び地獄に突き落とすことと同じ。

それは未央子にとって、二度目の罪になる。