親愛なる母へ




それならば、条件は揃ったはずだ。

未央子は自力で、望んで、ここに来た。

未樹が会わない理由はない。


「ねえ。お母さん、ここにはいないって言ったけど。退院したの?」


そう問うと、珍しく、亮の目が一瞬だけ泳いだ。

それを隠すように、うつむく。


「まさか……また、消えちゃった?」


未央子は半ば呆れた口調で問う。

失踪ばかりする未樹の、悪い癖がまた出たというのか。

しかし亮は答えない。

それが未央子を不安の中へと引きずり込む。