親愛なる母へ




未央子の名前は、大学でも有名だった。

同じ大学に“長坂未央子”がいるということを、亮は早い段階で知ることになっただろう。

そして未央子に近付く機会を伺っていた。

あの日、


『あたしのこと、知ってるの?』

『あんた、目立つからな』


亮の嘘が、始まった。

そしてそれは、今の今までずっと、続いている。

そして何も知らないふりをして、母親を探すよう仕向けたのだ。

未央子の胸に、沸々と怒りに似た感情が生まれる。

これまで優しくしてくれたことも、支えてくれたことも、まるで全て嘘だと言われているようだった。