親愛なる母へ




未央子は焦れて声を上げる。


「あたしは久保未樹の娘です。母に会わせてください!」


そう言って初めて、看護師の視線が定まる。

しかしそれは一瞬のことで、またしても彼女は視線を泳がせる。


「未央子」


看護師の腕を掴んだ手に、亮が触れる。

邪魔をするなと言わんばかりの勢いで亮を見上げると、亮は悲しげな表情で、言った。


「未樹さんは、ここにはいない」


“ここにはいない”、それよりも、未央子の耳に違和感を残したものは、


「“未樹さん”……?」


未央子は思う。

まるで、そう呼び慣れているみたいだ。

そんなことは、あるわけがないのに。