親愛なる母へ




なかなか踏み出せずにいる未央子に、亮は静かに問う。


「どっちを、怖がってる?」


未央子は顔を上げる。

色素の薄い目に見つめられると、無償に泣きたくなった。



どっちを怖がってる?

そんなの、わかっていたら、怖がる必要なんてない。



未央子は頭を軽く振る。

怖がるのは、臆病だからではない。

臆病なのは、怖がったままで歩き出さないことだ。

未央子はぐっと口を引き結んで、産婦人科のドアを押し開けた。