口を開いて、声を出そうと試みる。

しかし、ただわずかの空気が漏れ出したのと変わらなかった。

震える唇が、虚しく音のない言葉を紡ぐ。

浅く息を吸って、辛うじて唾を飲み込んだ。

喉がわずかに潤う。

もう一度、口を開いた。

しかし何を言おうとしていたのか、わからなくなる。

何を言うべきかは、最初からわかっていなかった。

かすれた声が、ぽとりと落ちる。


「なんで……」


問う以外に、何ができるだろう。

目の前に立つ人物は、決してそこにいるはずがないのだから。