口を開いて、声を出そうと試みる。
しかし、ただわずかの空気が漏れ出したのと変わらなかった。
震える唇が、虚しく音のない言葉を紡ぐ。
浅く息を吸って、辛うじて唾を飲み込んだ。
喉がわずかに潤う。
もう一度、口を開いた。
しかし何を言おうとしていたのか、わからなくなる。
何を言うべきかは、最初からわかっていなかった。
かすれた声が、ぽとりと落ちる。
「なんで……」
問う以外に、何ができるだろう。
目の前に立つ人物は、決してそこにいるはずがないのだから。
メニュー
メニュー
この作品の感想を3つまで選択できます。
読み込み中…