親愛なる母へ




未央子は再び病院に足を踏み入れた。

桐島医師の指示に従って階上に行き、“カウンセリングルーム”と書かれた部屋をノックする。

現れたのは白衣に白髪の小柄な男で、大きな目に丸い眼鏡をかけていた。

親しみの込められた笑顔で迎えられ、未央子は胸を撫で下ろす。


「旦那さんが来なくなったと思ったら、今度は娘さんとはね。久保さんも愛されたもんだ」


そう言って桐島は笑い、どうぞ、と未央子を革張りのソファに促し、自身はキャスター付きのワークチェアに腰を下ろす。


「母を探しているんです。ここを退院した後、どこへ行ったか知りませんか?」


そう問うと、桐島は腕を組んで椅子の背にもたれ、天井を仰いでうなる。


「プライバシーに関わることや、医療情報は、他者に話してはいけない決まりでね」

「そんなこと、知っています」


打てば響く勢いで未央子が言うと、彼は体を起こし、目を丸くして未央子を見る。