親愛なる母へ




「長坂未央子といいます。突然すみません。以前こちらに入院していた、久保未樹という人を覚えていらっしゃいますか?」


一息にそう問うと、桐島は「久保未樹」という名前を反復しながら、記憶を辿っているようだった。


「20代の後半からしばらく入院していて、うつ病だと診断されていたと聞いています」


反応の思わしくない桐島に、未央子は焦れたように説明を加える。

すると、電話の向こうで、ふっと空気が穏やかになる気配がした。


「覚えていますよ。君は、娘さんだね」


期待していた以上の反応に、未央子は一瞬言葉を失った。