親愛なる母へ




しかし亮は、それを遮るように、小さく吹き出した。

眉を寄せる未央子に、亮は「悪い」と言って、理由を話す。


「いきなり名前呼び捨てかよ」


くつくつとおかしそうに笑う亮の前で、未央子は顔を赤くして口を手のひらで覆う。


「ごめん、癖で」

「別にいいよ。帰国子女だもんな」


それは、何気ない言葉だった。

しかし、未央子を正気に戻すには充分だった。

初めて会った時から、亮は自分を知っていたことを思い出す。

それはつまり、未央子に関する噂話をおもしろがって聞いていたということになる。

そんな人間に相談事など打ち明けでもしたら、その話は瞬く間に周知され、ますますこの大学が居辛い場所になってしまうかもしれない。