親愛なる母へ




父は、膝の上で組んだ手に視線を落したまま、小さく頷く。


「心の病気は、本人の気質や、それまでの生活環境や生き方が要因になることもある」


未樹はもともと気性が激しく、そして真面目過ぎるところがあった。

結婚して完璧な妻であろうとし、未央子が生まれて完璧な母親であろうとし、彼女は無理を続けていた。

人に頼ることが苦手で、全てを一人で抱え込む性格でもあった。

ストレスが積み重なり、うつ病を発症したのは確かだと、医師は説明したという。


「未樹がもっと柔軟にやっていけたら、少なくともうつ病にはならなかった。しかし、そういう性格だと知っていながら、お父さんは未樹を支えてやれなかった」


未樹と向き合って、彼女のストレスを少しずつ吐き出させてやれなかったことを、彼は後悔していた。