未樹は、独特の香りを持つ、少し甘い、あの喫茶店のレモンティーをこよなく愛していた。
子どもの頃、母親がごくたまに連れて行ってくれた喫茶店で飲んだ味に、よく似ているためだった。
特別な時にだけ飲んでいたあの味の記憶は、未樹にとって大切な思い出だった。
その味と再会してしまったが最後、あの喫茶店に通い詰めることになる。
しかしあの街を去ることになり、もうあの紅茶を飲めなくなると知った時、結婚したばかりの彼の前で、未樹は子どものように駄々をこねた。
彼は自分の仕事の都合で、未樹をあの街から引き離すことを申し訳なく思い、喫茶店を訪れ、茶葉の種類とレシピを訪ねたのだった。


