親愛なる母へ




母親が好きだった紅茶を、父が知っているのはごく自然なことだ。

しかし、今も尚、その紅茶を淹れ続けていることに、未央子は激しい憤りを覚えた。

自分と娘を捨てて出て行った妻が愛した紅茶を淹れ続け、そしてそれを、何も知らない娘に飲ませていた、そんな父の心情が理解できない。

いったい何のために、その悲しい習慣は存在していたのか。

おいしそうに紅茶を飲む娘を見て、彼は胸が痛まなかったのか。

未央子に一生の傷を負わせた未樹の面影を、未央子に残す意味はあったのか。