親愛なる母へ




半分眠ったような状態で受けた講義の後、亮は仲間達と学生食堂で昼食を摂った。

その姿を捉えたのは、長坂未央子だ。

弾かれたように地面を蹴るが、人でごった返す食堂前を簡単に通り抜けるのは難しい。


「ねえ!」


呼びかけて、未央子は彼の名前を知らないことにようやく気付く。


「ねえ!ねえってば!」


“ねえ”だけで呼びとめるのは難しい。

あからさまに迷惑そうな顔をする人の群れを掻き分け、未央子はようやく、彼の肩から下がった帆布のバッグを掴んだ。