親愛なる母へ




机には便箋が広げられ、手にはボールペンを握っており、彼女はにこりと笑って答える。


『手紙を書いてるの』


どこか得意気に言う様子は、小さな子どものようだ。

自分よりもずっと年上なのに、亮はそれをよく忘れてしまう。


『へえ。誰に?』


亮が問うと、彼女は一旦ボールペンを置き、遠くを見るように目を細める。


『娘』


亮は、わずかに目を見開く。

亮はこれまで、彼女には子どもなどいないと思い込んでいた。

未樹の左手の薬指には指輪があり、結婚しているだろうことは想像できたが、こうして長いこと入院しているものだから、てっきり子どもはいないものと判断していたのだ。