親愛なる母へ




大学生が携帯電話を持つ時代ではなかった。

未樹が借りていたアパートの電話が繋がらない以上、直接訪ねる他にない。

先に大学に顔を出し、この後アパートを訪ねていくつもりだと言っていたが、この調子だと、もし家にいたとしても鍵は開かないだろう。

中森の電話にも出ることは期待できなかったが、わずかな期待を込めて公衆電話からアパートの電話を鳴らすと、意外にも繋がった。

相手が中森だとわかると、未樹は電話の向こうで泣きじゃくる。

慎重に話を聞くと、どうやら長坂の気持ちを疑っているようだということがわかった。

妊娠を喜んでくれていない、自分との結婚を迷っているのかもしれない、と未樹は言う。

しかし、それだけだった。

中森は拍子抜けする。