親愛なる母へ




タンデムシートにまたがった未央子が、いつまでも腰に手を回さないのを不審に思い、亮はエンジンをかけてから後ろを振り返る。

未央子はそっぽを向いて、シートの横に一応付いているバーを握っていた。

しかしそんな頼りないバーを握っていても、何の支えにもならない。


「未央子、ちゃんとつかまって」


そう言うも、未央子は顔を横に向けたままだ。

未央子はさっき亮に嫌な態度を取ったことを気まずく思って、素直に言うことを聞けないでいた。

しかしそんなことは亮には全てお見通しで、亮は未央子の手をバーからはがして、自分の腰に巻き付ける。

振り払われるかとも思ったが、未央子は素直にそれに従い、亮は安心する。


「行くぞ」


背中にヘルメットが当たり、未央子が頷いたことを確認してから、亮はスロットルを回した。

未央子はそっと、亮の腰に回した手に力を込めた。