親愛なる母へ




「あれ?一葉は?」


トイレから戻った未央子を待っていたのは、亮一人だった。


「機材を車に運ぶからって、仲間に呼ばれて戻ったよ」

「ふーん」


まだ機嫌の悪い未央子に、亮はこっそりと苦笑する。


「最後まで観ていく?」

「どうしようかな」


どちらともつかない未央子の言葉に、亮はやれやれとため息をつく。


「帰ろうか。疲れただろ」


そう言うと、未央子は頷く。

口は尖ったままだが、こういう素直さがあるから、亮は未央子を見放すことができない。

ドリンクカウンターに空き瓶を返し、亮が先に立って出口に向かうと、未央子は黙って、後に続いた。