親愛なる母へ




受付の男によると、ライヴはまだ中盤だった。

だが、肝心の一葉の所属するバンド名を聞き忘れていたため、一葉が出る前か後かはわからなかった。

未央子は財布を出そうとする亮を振り切って、二人分のチケット代とドリンク代を払った。

せめてもの礼のつもりだ。

受付の横の重い扉に手をかけて、何の心の準備もないままそれを引く。

すると演奏中のホールから、轟音が襲いかかってきた。

亮は首をすくめて片耳に指を突っ込む。

一方未央子は、久しぶりの感覚に心が強く揺さぶれるのを感じ、飛び込むようにしてその空間に足を踏み入れた。