親愛なる母へ




車の間をぬうように走り、ライヴハウスを目指した。

今日の出来事はひとまず記憶の隅にしまって、今は忘れてしまおうと未央子は目を閉じる。

渦巻く風の音を聞きながら、それでもやはり母親の面影は消えなかった。

その時、突如として未央子の脳裏に女性の笑顔がちらつき、消えた。

愛情に満ちた、全てを許容するかのような、ただ大きな優しさだった。

それは、さっき会ったばかりの兵藤か、あるいは。


「未央子、あれか?」


亮がスピードを緩め、未央子は目を開ける。

進行方向に、一葉から聞いていたライヴハウスの名前が浮かび上がっていた。