グラスに手を伸ばしたところで、それは空になっていることを思い出す。
兵藤が残したメモを手帳に挟んで、席を立った。
そこでようやく現実に戻り、はっとして腕時計に視線を落とす。
亮をずいぶん長く待たせた揚句、一葉のライヴもとっくに始まっている時間だ。
慌てて店を出て、亮の姿を探した。
見つけるのに、時間はかからなかった。
亮は先ほど未央子を下ろした場所で、バイクにまたがっている。
兵藤が店を出たのを見たが未央子が後に続かないので、先にバイクを取ってきたのだ。
「亮!ごめん、お待たせ!」
駆け寄って、差し出されたヘルメットをかぶる。
「ライヴ行くんだろ?飛ばすぞ」
未央子は頷いてタンデムシートに飛び乗り、亮の腰にきつく腕をからめた。