親愛なる母へ




名残惜しげに亮を見上げてから、未央子は一歩前に出て、くるりと振り返る。


「じゃあ、ね。来週、よろしくお願いします」


亮と向き合い、わざとらしく敬語を使って頭を下げる。


「はいよ」


笑いを含んだ返事と一緒に、その頭に手が乗せられる。

二度、軽く弾んだ後、


「じゃあな」


少し遅れて未央子が顔を上げた時には、亮は既に、自身の向かう教室へと足を進めていた。

未央子は、亮の手の感触を確かめるかのように、頭に手を乗せる。

亮の手のひらは大きかった。

胸が、くすぐったい。

じっとしていられなくなり、未央子は階段を一番飛ばしで駆け上がった。