親愛なる母へ




「ねえ、何の先生?」


鞄を持って歩き出した亮を追って、未央子も隣に並ぶ。


「数学。高校の」

「あ、体育じゃないんだ」

「ん。でも陸上部の顧問を狙ってる」

「あはは。ちゃっかりしてるね」

「おい。“しっかりしてる”の間違いだろ」


じゃれ合うようにして歩いていると、すぐに講義棟に着いてしまう。

未央子にはそれが残念だった。

本当は、もっと亮と一緒に過ごしたかった。

母親探しの計画を話し合いたいからという理由だが、それは口実だということに、未央子自身は気付いていない。

学年が3つも違えば、同じ講義を取ることもない。

せめて昼休みに、一緒に食堂に行けたらいいのにと、未央子は思う。

けれど亮は未央子と違って友達が多く、いつも連れ立って食事に行っているのを、未央子は知っていた。

未央子は肩を落とす。