「お迎えに上がりました。
 春宮さま、和花さま」



そう言って後部座席のドアを開けて、
私が移りやすいようにサポートしてくれると、
車椅子を畳んで、車内へと片付けた。



和花ちゃんと対面に座ってる車内、
今も気になるのは、鞄の中の携帯電話。


手を伸ばして、
和花ちゃんが持っててくれた
鞄から携帯電話を取り出す。




やっぱり今も、
氷雨くんのからのメールはない。





「氷雨君からの連絡がないの?」




溜息ばかりついてる私を見かねて、
和花ちゃんが切り出す。




「ねぇ、和花ちゃん。

 逢いたいって伝える気持ちは、
 何処までがセーフで、
 何処からが負担になっちゃうのかな?」





ポツリ呟く私。




「妃彩ちゃんが 伝えたいと思う気持ちは、
 伝えてもいいのではなくて?

 妃彩ちゃんが氷雨君にメールをしにくいって言うなら
 私がお兄様に」

「ううん。
 朔良さんにまで負担はかけたくないから。

 いいの。
氷雨君は受験生なんだもの。
 
 勉強も大変なのは、
 ちゃんと理解してるつもりだから」




そう、頭では理解してるつもりなのに
心は寂しさが募っていく。



少しでも彼の温もりを知ってしまった今は、
寂しさが浮き彫りになってしまうから。




「今井、車を出して貰えるかしら?
 浅間学院まで」



そう言った和花さんの言葉の後、
今井さんは静かに車を走らせた。



「浅間学院って?」



聞きなれない学校の名前に、
思わず聞き返す私。



「まぁ、妃彩ちゃん知らないの?

 浅間学院は、
 氷雨君が通ってる学校よ。

 確か生徒会長をしてたのは、
 彼の双子のお兄さんだったかしら?」

「生徒会長?」

「そう。

 今は高校三年生は生徒会も退いて、
 二年生の子がメインで動いてると思うけど、
 彼のお兄さんたちが生徒会をしていた頃、
 一度、合同でお茶会させて頂いたことがあるのよね。

 両校の親睦を兼ねて」


和花ちゃんの言葉は、
私が知らないことばかりだった。