「氷雨、時雨に聞いたわ。
 貴方の成績も上がったんでしょ。

 いいことだわ。氷雨も、やれば出来るんだから
 時雨や由貴君と同じように医大を目指しなさい。

 由貴君が立派なお医者様になってくれたら、
 小母さんも、由貴君のご両親に対しても責任が果たせるわ。

 由貴君も、今が正念場よ。
 小母さん、出来る限りフォローするから受験頑張ってね」


小母さんは、私の名前まで持ち出して
氷雨の説得に努める。



だけど私は……今も医大受験の夢が、
自分自身で選んだ選択と言う実感はない。

まだ流されて選んだ未来。


この手に掴み取った未来っと言う実感はない。



「氷雨、そろそろ諦めろよ。
 お前だって見てきただろ。

 警察官の父さんが、泊りになった途端に母さんがどれだけ
 不安な夜を過ごしてきたか。

 TVで中継されてる事件に関わってる父さんを心配して、
 ずっとTVから目を離してなかっただろ。

 けど父さんは、事件のことに関して家族には何も話さない。

 『仕事。仕事。仕事』って、その言葉がどれだけ家族を崩壊させてきたか
 わかってるだろ」




時雨の続けた言葉に、氷雨は苛立ったように立ち上がると
食器を流しに片付けて、部屋を出ていった。


すぐに階段から降りてくる足音が聞こえて、
そのままバイク音が遠さがって行く。



そのままダイニングで崩れ落ちるように、
涙ぐむ、小母さん。



そんな小母さんを気遣う時雨。



だけど私は時雨のように、
小母さんの肩を持つ方にもなりきれない。




両親が居なくなって、金城の小父さんにも
ずっと優しくして貰って来た。


小父さんが仕事を頑張っているのも、
家族を養うため。


その選んだ仕事が、警察官って言う仕事で
危険な時間が伴う仕事だったってこと。



私がその仕事をやりたいかって言われると、
そんな未来の選択は考えられない。


だからそう言う仕事を率先して、
選べる人って言うのは凄いと思える。



氷雨は、現実の厳しさを受け止めながら
小父さんの背中を追い続けてる。



そんな風に思えるからこそ、
その思いは、私以上に尊い夢のように思えて
何も言い返せないでいた。