「ついたぜ」



そう言ってバイクから降りた頃には、
酔って気持ち悪いのと、ふらふらと平衡感覚が覚束ないのと重なって
その場で座り込んでしまう。



「って、お前何やってんだよ。
 安全に遠慮しながら気を使って走ってやったろ。

 奈緒たちよりも、弱いってどうなんだよ」


そんな言葉を零しながら、
優と呼ばれた少年は、建物の中から濡れタオルを持って出てくる。



受け取ったタオルを顔にあてなから、
目を閉じながら、その場で体調が戻るのを待っていると、
聞きなれた声が聴覚を刺激した。



「由貴、何やってんだよ」

「氷雨……」

「ったく、ほらっ、立てるか」


そう言って氷雨は私を補助しながら立ち上がらせると、
支えるようにして、2階へと連れてあがる。



2階には、学校でも氷雨と良く行動している
黒田君の姿があった。



「氷室、何してんの?」

「ごめん。
 
 でも……氷雨と約束したように
 時雨たちには何も言ってないよ。

 私が純粋に知りたかっただけ。
 氷雨が何をしてるのか」


そう言った私に、氷雨はうなだれるように肩を落とした。



「氷室、冷たい飲み物。
 少し飲んだらに、落ち着くんじゃない。

 優のバイクで酔ったって?
 お前、まだまだなんじゃない?」

「有政さん、一言多いですよ。
 こいつが柔すぎるんです。

 あんなに鬱憤【うっぷん】溜まった走り、
 久しぶりですからね。

 もう少し流してきます」

「わかった。
 下のも連れて行ってやって」


そう言うと、
この部屋に残ったのは氷雨と黒田君。


そして私の3人になった。





「氷雨、氷室には話してやったら?

 これ以上、付きまとわれて危険に巻き込むよりは、
 正体を教えて、距離を取らせる方がいんじゃねぇ?

 生徒会長さんには話さないらしいし」


そんな言い方をした黒田君。




「わかったよ。
 由貴、話し聞いたらすぐに忘れろよ」


えっ?

話を聞いたら、すぐに忘れろって
氷雨、それは無茶苦茶でしょ。


そんな風に、自分の中で突っ込めるところまで落ち着いていることを感じると
変な緊張から解き放たれていくのを感じる。



立ち上がった氷雨が、
その部屋の中にあるクローゼットを開ける。




その中に綺麗に片付けられているのは、
何着かの服。




その中の一着を手に取って氷雨は戻ってきた。