「居るだろうが。
 てめぇの前に。

 オレが最初の一人になってやるから。
 弱音でもなんでもはけ。

 お前、携帯は?」



自分の携帯を取り出して、
連絡先を登録する準備をすると、
妃彩は持ってないと小さく呟いて首を振った。



「悪い……。

 でも携帯がなくても友達は出来るぞ。
 昔なんて、なかったんだからな。

 お前にオレの連絡先だけ教えとく。

 話したいことがあったら、電話してこい。
 出れるときは出るから」



ポケットに突っ込んだ生徒手帳の真っ白なページを
ビリビリと破って、そこに電話番号を書き留めて
妃彩に握らせた。


それだけでアイツは、
その紙切れを嬉しそうに握り占めた。


「なぁ、聞いていいか?
 何時から車椅子?」

「事故に逢う前まで。

 お父さんとお母さんが事故でなくなった
 後から、ずっと車椅子。

 動かなくなったの」

「原因は?」

「わからない。

 お医者様も足に原因は見つからないって。
 でも……動かないの」

「そうかっ……。

 だけど車椅子でもいろんなところ行けるからな。
 また連れてってやる」



妃彩の高さに目線を合わせて、
オレも地面に座り込みながら会話を楽しむ。



「氷雨、楽しいって知ってる?
 私……あまり知らない」

「そうかっ。

 なら、これから楽しいこと
 一緒に見つけりゃいんだよ。

 いろいろ教えてやるから楽しみにしとけ」





ガキの時みたいに、
純粋に何でもぶつけてくる妃彩。




危なっかしくて、ほっとけねぇっと
想っちまう話し方・雰囲気。




清らかなアイツが
何処までも眩しかった。