「時雨は氷雨が怪我していたことにも
 気が付かなかったの?」


追い打ちをかけるように伝えた言葉に、
気まずさを覚えたのか、時雨は『頭を冷やして来る』っと
氷雨の傍から姿を消した。


「氷雨、怪我は大丈夫ですか?
 あぁ見えても、時雨も凄く心配してたんですよ」


そんな言葉をかけながら、
私は氷雨をもう一度ソファーに座るように誘導して
その隣に腰を下ろす。


「氷雨、何があったんですか?
 時雨は事故としか言いませんでしたが……」


「別に何でもねぇよ。
 トラックと車椅子を避けるの、オレがミスっただけだよ。
 おかげで相棒はおしゃか。

 どうすっかなー。
 今度、パーツ分けて貰っていじるの、どんくらい時間かかるかなー」

「氷雨のバイク、そんなに悲惨なんですか?」

「まぁな。
 けど……人の命には変えられないだろ。

 だからさ、車椅子のアイツにも何としてでも生きててほしんだよ。
 アイツが……相棒が犠牲になってまで、守った奴だからな」


とれだけ乱暴な言葉づかいでも、どれだけ不良っぽく振舞っても、
氷雨の優しさの本質を知ってる私には、
その氷雨の思いがクリスタルの様にキラキラと輝いて見えて
とても眩しくなる。



「大丈夫ですよ。
 氷雨がずっと祈り続けてるんですから。
 私も一緒に、祈らせて貰っていいですか?

 その女の子が無事に目覚めるように」


その言葉に対する返事は何も得られなかったけど、
返事がないのを肯定ととって
私はゆっくりと氷雨の傍で祈り続ける。


暫く氷雨と一緒に過ごした後、
今度は時雨の様子を見に、氷雨の隣から立ち上がる。



病院の玄関前の公園のベンチ。


缶珈琲を手にしながら、イライラとした素振りの時雨は、
小父さんによって、小母さんにも「氷雨の事故」のことが
電話で伝えられたことを教えられた。


小母さんがまた不安定になっている現状を
時雨は危惧し続ける。



そんな家族問題で、小母さんに寄り添う時雨の優しさに気が付きながらも
何も仲介できないもどかしさ。


一歩引いて見続けるからこそ、複雑に絡み合う糸もどんなふうにこんがらがっているのか
わかるのに、わかっても何も出来ないそんな苦しさに捕らわれ続ける心。



時雨の優しさを取れば、氷雨の夢を否定して
氷雨の夢をとれば、時雨の想いに敵対する。