幸せとは、かくも儚く終わるものなのだろうか。

「中村くん……」

「海藤さああん!」

引き裂かれた思い…引き裂かれた肉体。

血の海の中で、無惨な姿をさらす2人。

しかし、少年は最後の力を振り絞り、少女へと手を伸ばした。

これが…初めて少女に触れた瞬間だった。

ぎゅっと握り締めたまま…少年は息を引き取った。

そんな最後の繋がりを、無表情な白い服を着た男が、踏みつけた。

その男の全身は、返り血で真っ赤になっていたが…さほど気にはしていない様子であったと、最初に通報した目撃者は説明した。

犯人はその場から動かなかった為に、すぐに捕まった。

この通り魔事件は、すぐに解決すると思われていた。

しかし、容易には解決しなかった。

なぜならば、彼は凶器を所有してはおらず…高校生2人を殺したものは、彼らが学校で使っていた筆記用具だったからだ。

カッターナイフで、彼女の太ももを丸ごと抉れるだろうか。ボールペンは、あそこまで深く刺さるだろうか。

いろいろな疑問を犯人から問いただそうとしても、彼はこたえなかった。

「何故ならば…僕は、自分から何もしないからだ。僕は殺していない。彼らが勝手に死んだんだ」

彼はそう言うと、自嘲気味に笑った。




「先生」

「わかっています」

担当の刑事のすがるような目を見て、長谷川は力強く頷くと、ありふれた銀色のノブを掴み、中に入った。

これまたどこにでもある机とパイプ椅子が二脚。

長谷川は、机の向こうに座る男に目をやった。

全身を白で統一した服装は、清潔というよりも異常性を感じさせた。

「初めてまして、今回…あなたを担当することになりました、長谷川正流と申します」

長谷川は、男の目の前に座ると、すぐに二枚のカードをおいた。

「これから、簡単なゲームを行います。私のいうことに関して、こちらに並べられたカード。どちらを思い浮かべたか答えて頂く…ただ、それだけですよ」

長谷川は、男ににこっと微笑みかけた。