お姉ちゃんの結納の日、1ヶ月ぶりに湊に会った。

神楽坂のこじんまりとした料亭で美味しいお料理を食べて、両親と家に戻った。

築14年の家に着いて父の運転する国産車から一番先に下りた母の声が嬉しそうに響いた。

「あら~ 湊くんじゃない。久しぶりね~ ますますカッコよくなっちゃって」

一つ年上の隣に住んでいる本田家のひとり息子 本田湊(ほんだみなと)は母の言う通り整ったキレイな顔をしている。

女の私が悔しがるほどに。

中学校までは私と身長があまり変わらなかったけれど、高校に入ってからグンと大きくなってモデルにでもなれそうなほどカッコよくなった。
細身のスタイリッシュなメガネが知的な印象を与える。

紺地のスーツを着ているのを見て、あれ? と思う。

湊は都内湾岸地区のマンションにひとり暮らしだ。
今日は日曜日。

どうしてスーツなんだろう? 就活? なわけないか。
湊は大学卒業後、外資系のトレーダーとして働いているんだから。

「ミミ、なにバカ面してるの?」

考えていると、湊の声が頭の上から降って来た。

「バ、バカ面って、ほんと口が悪いんだからっ!」

からかわれているのはわかっているけれど、いつもムキになってしまう。そんな私をからかうのが湊は面白いみたい。