「俺んちももう家族バラバラだし、貰おうと思えば案外簡単にお前のこと貰えるかも」
「……それ、本気で言ってる?」
「半分ね」

顔を横に逸らして吐いた彼の白い息は、殺風景な部屋を漂って消えていく。
つん、と鼻に苦みが走った。

「じゃないと、合い鍵なんかやらねえよ」


――少し前、彼の部屋によく通うようになっていた私に、彼は合い鍵をひとつくれた。
いつも彼の帰りを待って玄関の前で蹲っていた私を、いい加減哀れに思ったらしい。

帰りを待つくらいなら他の人の家に行けばいいのに、私は何故かそうしなかった。
理由なんてない。ただ、彼の家が、よかった。


中で待ってろ、と無愛想に手渡された、小さな銀片。
彼が唯一私にくれたもの。母親じゃない、私に。

他の何を失っても、これだけは絶対になくさない。


私だけの、銀色。


「俺、お前のこと好きだよ、ちゃんと」
「……うん、」
「母さんの代わりとか思ったことねえから」
「……う、ん、」
「だからもう、比べたりすんのやめろ」

そう言って私を抱き寄せる温もりが心地好い。
初めて触れたときも、彼は優しかった。