お嬢様になりました。《番外編》

荒木さんと内藤さんと一緒に歩き慣れた廊下を、一歩一歩確実に足を進めて行く。


この廊下ってこんなに長かった!?


こんなに緊張してバカみたい。


そう思いながらも今の自分を笑飛ばせなかった。


重症だ……。



「葵お嬢様」



名前を呼ばれ足を止めて斜め後ろを振り返ると、キリッとした顔をした荒木さんと目があった。


何事かと思っていると、荒木さんが微かに口元を緩めた。


戻ってきてくれてからというもの、荒木さんは以前よりも笑うようになった。


雰囲気も柔らかくなった気がする。


気を許してくれてる証拠なのかなと思うと、嬉しくてついにやけてしまいそうになる。



「深呼吸をしてみては如何ですか?」

「……深呼吸?」

「そんなに肩に力が入っていては、せっかくの葵お嬢様の良さが薄れてしまいます」



私の良さ?


一つぐらいはあって欲しいとは思うけど、自分ではよく分からなかった。


でも今まで荒木さんは意味のない事を言った事もした事もない。


だから私は目を瞑り、素直に深く深呼吸をした。


息を吐き終え静かに目を開けると、いる場所は先程と変わらないのに、身体中にまとわりついていた張り詰めた空気がなくなった気がした。