お嬢様になりました。《番外編》

隆輝が山口君を殴った時の映像がサッと頭に浮かび、一気に血の気が引いた。


どうしようかと一人慌てていると、隆輝の手がピクッと動いた。



「何してんだよ」



咄嗟に隆輝の腕を掴むと、低い声が頭上から降ってきてギロッと睨まれ体が固まった。


無理矢理口角を上げ笑って見せた。



「人違いされただけ。 もう行こう」

「あ? おい! 引っ張るんじゃッ……」



隆輝の腕を強引に引っ張り、二人で会場に戻った。


周りから見られてるけど今はそれどころじゃなかった。


兎に角隆輝を外に連れ出さなきゃ、いつボンボン暴君を発揮するかわかんない。



「いい加減離せ!!」



腕を振り払われ、ハッとなった。


いつの間にかホテルの玄関口まで辿り着いていた。



「さっきの奴は何なんだよ」

「知らない」

「知らないって何だよ」

「人違いされただけって言ったでしょ!? それなのに知るわけないじゃん!!」



眉間に皺を寄せた隆輝は、背を向け歩き出した。



「ここにいろ」

「え?」

「送らせる」

「送らせるって……一緒じゃないの?」

「俺は寄る所がある」



そう言うと隆輝は顔を向けないまま行ってしまった。


引き止めようと口を開いたけど、声が出なかった。


背中から隆輝の怒りが伝わってきたから……。


自然と手に力が入り、手に違和感を感じた。


リボン……持ってきちゃった……。


どうしていいか分からなくて、私は海堂家の車に一人で乗り、おとなしく帰る事しかできなかった。