お嬢様になりました。《番外編》

玄関のドアの前に立っている隆輝を見て、ドキッと胸が高鳴った。


スマートに濃紺のスーツを着こなし、色気を醸し出している。


スーツの上からでも引き締まった身体つきが伺える。


色気なんて普段の二割……いや、三割増しだ。


ついつい見惚れてしまっていると、隆輝が私に気付き、いつもみたいにキリッとした顔をした。


こういう時、少しくらい微笑んでくれてもいいと思うんだけど……。



「遅いんだよ、さっさと行くぞ」



そしてこの一言。


私彼女だよね?



「待つのが嫌なら先に行ってれば良かったじゃん」

「あ? 別に嫌とは行ってねぇだろ」



不機嫌な顔で私の事を見て、更に不機嫌な顔をした。



「ほら」



腕と体の間に隙間をつくると、視線で合図された。


ムカつく。


褒めてくれなくてもいい……だけど、せめて『いつもと感じが違うな』くらい言ってくれればいいのに。


せっかく頑張ってお洒落したのに……バカ隆輝!!


乱暴に隆輝の腕に自分の腕を絡ませた。


一瞬驚いた顔をされたけど、背ける様に顔を後ろに向けた。



「荒木さん、内藤さん、行ってきます」

「はい、行ってらっしゃいませ。 海堂様、葵お嬢様の事をどうぞ宜しくお願い致します」



荒木さんたちが頭を下げてくれている中、私と隆輝は家を出た。


玄関先に止まっている海堂家のリムジンに乗り込むと、車はゆっくりと動き出した。