騎士団には女性が多いのだとナレッズは語った。

 杖を握るのは、大抵が女性だという。その代わりに力が強い男性は、前衛で剣を振るうのが仕事だそうだ。

「ヴィルクスさんは別だけど。あの人は、力も魔術も文字通り桁外れだよ。騎士団の中でまともに渡り合えるのは、団長と――」

 言いかけて、ナレッズは口を閉ざす。リヒトが何か言葉を発する前に、その青い目が緑を覗き込んだ。

「そういえば、リヒトさんって魔術のことはどのくらい知ってる?」

「えー、術の大まかな括りとか、発動の条件とか。俺の世界ってさ、あんまり魔術が重視されてなくって――だから、実はよく知らねえ」

 彼が言えば、青年は意外そうに眼を見開いた。

 それから不意に視線を外して、少しずつ冷えていく夜空を仰ぐ。

「勿体ないな。そんな才能があるのに」

「そんなの見ただけで分かるのか?」

「見ただけじゃ無理。団長くらい強ければ雰囲気で分かるけど、君って戦闘経験ないだろ?」

「そうだな。うん、ねえよ。今まで平和だったしさ」

 そうだよねと呟いて、ナレッズが持ち上げたのは、騎士服の袖口についた小さな宝石だった。

 名を「魔晶石」というそうだ。

 この世界の武器や防具から家の素材まで、全てはこの石が基になっているらしい。魔力を流し込めば使える便利なもので――国の発展すらも、魔晶石の採掘場の有無によって決まるという。

 昔は戦争もあったらしいけど――と言って、ナレッズは笑った。

「今は生き残った五国で協定があって、街の防衛以外の武力行使が禁止されてる。軍事大国のクラステン帝国っていうのが隣にあるんだけど、そこが取り決めた話だから、今までどこも逆らったことはないよ」

「ふうん。でも、これだって民間で使われてるわけだろ? 危なくねえ?」

 民間人の魔力で使えるものはそう多くないと、騎士は再度笑顔を見せる。

 魔晶石には純度があるらしい。高ければ高いほど高位の魔術に馴染むが、そもそも、一瞬で放出できる魔力の量には、生まれつき限度があるそうだ。つまり、騎士への就職を認められないような魔力量では、ろくな魔術は使えない。

 故に、魔晶石の流通を防ぐようなことはない。

「それで、こいつがどうしたって?」

 外れた話の筋を戻そうと、好奇心の浮かんだ瞳を魔晶石へ向けながらも、リヒトが問う。

「君の魔力に反応してるってこと。――でも、正直、こんなの初めてなんだ。だからよく分からない」

「初めてって」

「何か――特別なのかな」

 酷く不思議そうに告げたナレッズは、ふと空を振り仰ぐ。

 月が昇っていた。

 淡い青の光を放つ満月を目にした彼の顔色は、恐らく月の光のせいではなかった。