彼は同じクラスの
内野 海。

スポーツ万能で、成績優秀。

おまけに、背が高くて
顔も格好いいから女子たちに人気がある
(彼は自覚していない。むしろモテてないと言っている)。


キーンコーン、と何処からか
お昼を知らせるチャイムが鳴り
私はガードレールから手を離した。



ただいま、と家に戻ればガンガンと効いた
冷房が全身にピタリと貼り付く。

その冷たさによって、私の全身にへばりついていた
汗が吸収され、冷たい空気にすり替えられる。

まるで、手品師のように。

居間に足を踏みいれば、
おばあちゃんがテレビを見ていた。

恐らく、時代劇か何かの番組だろう。

「おかえり」

おばあちゃんはテレビから目を離して
ニッコリと笑って言った。

「ただいま」

私はそう返したあと、
おばあちゃんの隣に座ってテレビを見た。

やっぱりおばあちゃんが
見ていたものは時代劇だった。

悪代官のセリフ、

「お主も悪よのう」

「いやいや、お主様の方が悪うございますよ」

は、もはや定番である。

そういえば、前に男子たちが
悪代官の真似をやっていたような気がする。

「森野も悪よのう」

「いやいや、内野の方が悪うございますよ」

本人たち曰く、悪代官ごっこらしい。

一通り時代劇を見たあと、おばあちゃんは
テレビを消してしまった。

そして、こう私に問いかけた。

「美波、麦茶でも飲むかい?」

「ううん。アイスココアがいい」

おばあちゃんはニッコリと笑いかけたあと
そそくさと台所へと向かっていった。

カタカタ、と音をたて
カラン、とコップに氷が入る音がする。

そして、コポコポとココアが注がれる。

「はいよ」

カタン、と置かれたコップには
小さな水蒸気がプツプツと
所々にあった。