しばらくして、箱詰めされた
大福を持った彼が現れた。

「お待たせ」

「えっと…。箱詰め、とは
言ってないんだけど。2、3個でいいのに」

「いいって。サービスだよ」

「まあいいや。代金は?」

「代金もいらない」

「え、でも…」

「いいから。持っとけ。大事なお金なんだろ?」

「…」

彼は笑って私の持っていた1000円札を
財布に閉まわせた。

「ありがとう」

「いいって」

「うん…」

「ほら、今日は暑い。熱中症になるから
早く家に帰った方がいい」

「わかった。じゃ、またね」

「ん。じゃあな」

重い扉を開けて、外に出る。

ドアが閉まった瞬間、カラン、と
呼び鈴の音がした。

袋に詰められた大福を
自転車の籠に詰め込み、
私は自転車を走らせた。

ぐんぐんと自転車は
街を突っ切って風を招く。

生暖かい風が、私の肌を刺激する。