たが、運動神経に乏しい私は
すぐに息を切らした。
だんだん小さくなっていく
背中を逃がすものかと、私は
腹に息をたっぷりと吸い込み
「内野くん!」と、まるで悲鳴のような
大声を出した。
私の声に気がついたのか、
赤い自転車は一瞬ピタッと止まり、
そしてまた踵を返して
引き返してきた。
「呼んだか?」
と、彼は聞いた。
「あ、うん。ちょっとね」
「俺に何か用か?」
「今、時間空いてる?」
「空いてるけど…、どうした?」
「ちょっと家まで来てほしいの。
渡したいものがあるから」
ここまで言って、私は
さっさと足を進めていく。
「あ、おい。待てよ!」
と、後ろであたふたとしている彼を
少し離れた場所で待った。
そして、自転車を漕いだ内野くんが
間もなく現れた。
「お前、行くの早すぎ!てか、
勝手に決めんなよ」
内野くんは、怒ったように声を荒げて言った。

