有志はコートの中であいもかわらずどんくさかった。


でも、一生懸命で生き生きしている。


応援したくなるような何かを醸し出していた。


「がんばれ」


大きな声を出すのは恥ずかしいから、小さく口を動かしてみた。


「弟くん、一生懸命だね。」


「いや、だから兄です。」


「あっ、そっか、ごめん。何か弟っぽい空気醸し出してる子だから。」


「つまりは先輩と同類ですよね」


「え……そうなの?」


きょとんっとした先輩の顔を見て、わたしは声をあげてを笑いだしたい衝動にかられた。


でも、こないだのいきなり泣き出した件でバスケ部の練習に迷惑かけるのには懲りてるので、口元はピクピクさせて必死で堪えた。


「……今すんごい笑いこらえてるでしょ」


むっとした顔の先輩が言う。


「いえいえ、そんなことありませんよ」


わたしは笑顔で否定して、


「音楽室に戻りますか」


と提案した。


先輩はなごりおしそうにコートの方を見て、うん、とうなづいた。


「楽器とかって、一日練習しないと三日間の練習が無駄になるとか言うもんね」


「いいますよねぇ、スポーツとかでも」


わたしたちは音楽室に戻るべく昇降口に向かって歩き出した。


先輩は、バスケしてる『青ちゃんとおんなじ顔の男子』の姿を目に焼き付けんとばかりに五歩おきぐらいでいちいち振り返る。


わたしは少しムッとして、


「ほら、先輩行きますよ」


と先輩の腕を引っ張った。


「あはっ、ごめん」


先輩が頭に手をあててペロリと舌をだした。


そんな仕草も大好きだと思ってしまう。


わたしは先輩に笑って、そんなにうちの兄が珍しいですか?と尋ねた。


珍しいよぉ、と先輩は大真面目にこくこくうなづく。


天使の皮かぶった悪魔な弟っていう、もっと珍しい奴もいるのだが。


わたしは何となく真昼のことが気になって、コートの方をもう一度振り返った。


そして一秒後には振り返ったことを後悔した。


夢みたいに綺麗な男の子がこっちを見ている。


つか、睨んでる。


怖い。


嫌な予感がする。


そんな予感はもはや五年前くらいから珍しいことではないけれど。


わたしはただちにきびすを返して先輩と並んで再び歩き出した。