次の日、学校へ行くと、当然の如く目をキラキラさせた蓮がわたしを出迎えた。


「青っ、やっぱり園村真昼のファンなんじゃん!」


「……は?」


昨日、玄関の中で真昼と仲直りしたことで、もう一つの問題を忘れていたので、


こいつ何言ってんだ


と蓮にうろんな目を向けた。


そして数秒かけて、そういえば格好の噂の種をまいていたんだと思いだして青ざめた。


昨日の午前はずっとそれで悩んでいたのに、すっかり失念していた。


わたしは『風道中学二年の天使』こと園村真昼に公衆の面前で弁当を渡したのだ。


噂にならない訳がない。


そして今わたしの前でニヤニヤしているこいつが情報をしいれていない訳がない。


なんせ新聞部のエース。


「ふっふっふっ、『あの』園村真昼に公衆の面前で弁当渡すとは姫もなかなかやりますな。」


プリンセス・ブルーといちいち言うのがめんどくさくなったらしい蓮はわたしを姫呼びしてにやりと笑った。


……怖い、こいつ、ホントに怖い。


「……なんのことだか」


我ながら苦しいが、うまい言い訳も思いつかないので蓮の前だけでもしらばっくれることにした。


内心冷や汗をかきながら顔をそむけるわたしに、蓮はさらに詰め寄る。


「いやいや姫、ネタは上がってるんですぜ」


あんた誰だよ、とツッコミたいのを不屈の精神でこらえて、わたしは新聞部のエースを無視した。


そんなわたしに構わず蓮はしたり顔でさらに続ける。



「しかし、あの王子さまもホントひくてあまたって感じですねぇ。情報によれば二組の女子たちはいかにして自分の作ったおかずを真昼の胃袋におさめようかと毎日戦々恐々らしいですぞ。」


「え?」


わたしは目を丸くして蓮を見た。


それを見た蓮は何を勘違いしたのか目をキラキラ超えてギラギラさせて言った。


「おおっ、やっぱり気になりますかな、姫の中で嫉妬の炎が燃え上がってますかな。」


いえ、後悔の雨が降っております。


真昼にはいざとなれば弁当分けてくれる可愛い可愛い女子がいっぱいいるじゃないかっ


どうして昨日のうちに気づかなかったよっわたしっ


でももう遅い。


わたしは恐る恐る教室を見渡した。


いつもと同じ、ほかのクラスに比べると比較的穏やかな雰囲気。


しかし、わたしの方に剣呑な眼差しを向けてくる女子がちらほら。


昨日のうちに気づいていれば、こんな怖い思いしなくてすんだのにっ


わたしはふぅーっとため息をついた。


まったく真昼には苦労させられる。


でも………


わたしはうるさい蓮の横で微かに笑った。


わたしだけに向けられる、夢みたいな笑顔を見られただけで良かったとしようか。


……代償が大きすぎる気がしないでもないが。