「好きな人……青に好きな人……」


「あのぉ、いいかげん現実の世界のもどってこない?」


さっきから有志が怖すぎる。


わたしは、告白が想像以上に衝撃だったらしく違う世界に行ってしまった兄の帰還をしばらく立ち止まったまま待っていた。


しかし有志は、足が地面に生えたみたいに動きだそうとしない。


仕方がないから、無理やり手を引いて歩き出すと、おとなしくついてきた。


しかし、足を動かしながらもほうけたままで、わたしはどうしたものかとほとほと困っていた。


「有志……」


「………」


返事が返ってこない。


このお兄さんどこまで飛んでっちゃったんだ。


妙に虚しくなりながらも、わたしはひとり言のように続けた。


「わたしたちって恋だの何だのってホントなかったよねぇ。」


「………」


「初恋を幼稚園ですませちゃう子もいるご時世なのにね。」


「………」


………なんか腹立ってきた。


「有志はさぁ」


「………」


「好きな子とかいないわけ」


「………へ?」


間抜けな声とともにようやくお兄さんが現実に戻ってきた。


しかし、質問の内容を理解するのに数秒を要したらしく、しばらく不思議そうな顔をしてわたしを見ていた。


が、数秒後にはわかりやすいくらい真っ赤に頬を染めた。


「あっ、いるんだ」


「いないよっ」


有志は再び頬に手を添える。


正気に戻った途端、窮地?に立たされた有志はムキになって言った。


「僕のことより、青だよっ。好きな人って、誰?」


「……三年の先輩だよ」